アスベストは優れた断熱性や耐久性から、かつては建材や製品の材料として広く使用されていました。しかし、アスベストを吸入すると健康に深刻な影響を及ぼすことが判明し、現在は多くの国で使用が禁止されています。
日本では、アスベストが含まれる建材を安全に解体・撤去するために、適切な資格が必要です。アスベスト解体に必要な資格と取得方法、そして資格に関する注意点を詳しく解説します。
目次
アスベスト解体に資格が必要な理由
アスベストによる健康被害や環境汚染を防ぎ、安全な作業を徹底するためにも、アスベスト解体を行う作業員には資格が必要とされています。
また、法令を順守することで、作業現場で健康被害が発生するリスクが減少し、周囲の住環境にも配慮した対応が可能となるのです。ここでは、これらの内容について詳しく解説します。
アスベストとは
アスベストは、天然の鉱物繊維で、非常に細かい繊維構造を持っています。断熱性や防音性に優れているため、建築物や工作物などに幅広く使われてきました。
しかし、アスベスト繊維は非常に小さく、空気中に浮遊しやすい特徴があります。このため、アスベスト含有製品を解体する際には、吸い込んだ繊維が人体に悪影響を及ぼす可能性があり、特に解体作業においては厳重な管理が求められています。
健康被害から守るための資格
アスベストを吸い込むと、肺に繊維が入り込んでしまい、蓄積されていきます。これにより、数年から数十年という長い潜伏期間を経て、肺がんや中皮腫、アスベスト肺などの深刻な健康被害が発生する可能性があります。
アスベストによる健康被害のリスクを最小限に抑えるためには、適切な資格を持った技術者が、安全な方法で作業を行うことが重要です。そのため、アスベスト解体には法令で定められた資格が必要とされています。
アスベスト解体に必要な資格の種類
アスベスト解体には、いくつかの専門資格が必要です。それぞれの資格には異なる役割と取得方法があり、状況や目的に応じて適切な資格を取得する必要があります。アスベスト解体に関係する6つの資格をご紹介します。
石綿取扱作業従事者
石綿取扱作業従事者は、アスベスト含有建材の取り扱い作業に従事する際に必要な資格です。この資格は、アスベスト含有建材の破砕や粉じんが発生する作業など、アスベストを取り扱う際に必要とされ、労働安全衛生法に基づいて規定されています。
石綿取扱作業従事者の資格を取得するためには、一定の特別教育を受講する必要があります。
取得方法 | 4時間30分以上の講習を受講する |
講習内容 | ・アスベストの有害性
・アスベスト解体における適切な作業方法 ・保護具の使用方法 など |
開催機関 | 全国各地の団体・企業 |
石綿作業主任者
石綿作業主任者は、アスベスト含有建築物を解体・撤去作業する際に、その現場での安全管理や監督を行う責任者に必要な資格です。労働安全衛生法で定められた国家資格であり、石綿作業主任者技能講習を修了することで取得できます。
作業主任者は、解体現場でのリスクを把握し、適切な防護策を講じることで、作業員や周辺住民の健康被害を未然に防ぐ重要な役割を担います。
取得方法 | ・2日間の講習を受講する
・修了試験に合格する |
講習内容 | ・健康障害と予防措置
・作業環境の改善方法 ・保護具に関する知識、関係法令 |
開催機関 | 厚生労働省 |
参照:『石綿作業主任者技能講習規程(平成18年厚生労働省告示第26号)』(厚生労働省公式ホームページ)
建設物石綿含有建材調査者
建設物石綿含有建材調査者は、建築物に使用されているアスベスト含有建材の有無を調査する際に必要な資格です。この資格を取得することで、アスベスト含有の可能性がある建材の調査を行えます。
解体や改修工事を行う前段階で必要とされる資格であり、大気汚染防止法の改正により、アスベスト調査の重要性がますます増しています。取得方法は以下の通りです。
取得方法 | ・一般建築物石綿含有建材調査者講習:11時間の講習を受講する
・一戸建て等石綿含有建材調査講習:7時間の講習を受講する ・受講後の試験に合格する |
講習内容 | ・建築物石綿含有建材調査の基礎知識
・建築図面調査 ・現場調査の留意点 ・報告書の作成 など |
開催機関 | 厚生労働省 |
参照:『講習会情報』(厚生労働省公式ホームページ)
アスベスト診断士
アスベスト診断士は、建築物や構造物に使用されているアスベスト含有建材の有無を調査し、アスベストの取り扱いについてアドバイスが可能な資格です。この資格は、日本国内のアスベスト問題に対応するための専門性を証明するものであり、アスベスト含有建材の事前調査や診断を行う業務で重要な役割を果たします。
取得方法 | ・3日間の養成研修会を受講する
・試験に合格する |
講習内容 | ・アスベストの基礎
・調査方法 ・報告書の作成方法、 ・石綿の処理方法 など |
開催機関 | 一般社団法人JATI協会 |
作業環境測定士
作業環境測定士は、アスベスト解体における作業環境の測定と評価を行う際に必要な資格です。
アスベスト作業が行われる現場では、作業環境中の粉じん濃度やアスベスト濃度を測定し、その結果に基づいて防護策を講じる必要があります。作業環境測定士は、これらの測定結果を基に現場の安全性を確保し、作業員や周辺住民の健康を守るといった役割を果たします。
また、作業環境測定士として仕事をするには、国家資格に合わせて測定士の資格も取得しなければなりません。
取得方法 | ・国家資格を取得する
・登録講習を受講する ・修了試験に合格する |
講習内容 | ・有害物質濃度の測定方法
・金属、有機溶剤の分析方法 など |
開催機関 | 公益財団法人 安全衛生技術試験協会 |
高所作業車運転特別教育
アスベスト解体作業では、高所での作業が必要な場面もあります。作業員が作業車両を操作する場合には、「高所作業車運転特別教育」を修了している必要があります。
高所での作業には転落や落下などの危険が伴うため、適切な教育を受けた作業員が安全に作業を行うことが必要です。
取得方法 | ・高所作業車の運転業務に係る特別教育または高所作業車運転技能講習の講座を6時間以上受講する
・実技教育を3時間以上受ける |
講習内容 | ・高所作業車の作業に関する装置の構造及び取扱いの方法に関する知識
・原動機に関する知識 ・高所作業車の運転に必要な一般的事項に関する知識 など |
開催機関 | 全国各地の団体・企業 |
アスベスト解体で資格に関する注意点
アスベスト解体に関わる資格には、2023年の大気汚染防止法の改正に伴う変更点がいくつかあります。
2023年9月までは、「アスベスト診断士」の資格を取得していれば、アスベストの事前調査を行うことが認められていました。ところが、2023年10月の法改正により、アスベスト診断士の資格のみでは事前調査を実施できなくなったのです。
現在は、日本アスベスト調査診断協会に登録することで、アスベスト診断士の資格のみでも事前調査を行えます。アスベスト診断士の資格しか持っていないが事前調査業務を行いたいという方は、日本アスベスト調査診断協会への入会手続きを行いましょう。
アスベスト解体に関する法令は、今後もさらなる変更や規制強化が見込まれる分野であり、最新の資格要件や法改正に注意を払いながら、安全で法令に順守した作業を行うことが求められます。適宜、最新情報のチェックを行いましょう。
まとめ
アスベスト解体に必要な資格について、その種類や取得方法、そして最新の法令改正に伴う注意点を解説しました。
アスベストは健康に深刻な影響を与える可能性があり、解体や除去作業においては資格保持者が慎重に作業を行うことが不可欠です。また、2023年の法改正により、資格要件に関するルールが変更され、特に「アスベスト診断士」の資格保持者には日本アスベスト調査診断協会への登録が推奨されるなど、新たな対応が求められています。
アスベスト解体に関わる方は、適切な資格を取得し、法令を順守しつつ安全な作業を心がけましょう。