飲食店を閉めるとき、避けては通れないのが閉店に伴う各種の届け出です。届け出をしないままにすると、税務や保険、労務面で後からトラブルに繋がることも。閉店後に思わぬトラブルを発生させないためにも、必要な届け出について理解しておくことが重要です。
今回は閉店時の書類手続きが初めてという方でもわかりやすいように、必要な基本手続き4つについて解説していきます。ぜひ参考にしてみてください。また、テナント退去の基本的な流れは以下の動画でも解説しています。ぜひこちらも合せてご参照ください。
目次
飲食店を閉店するときに必要な届け出とその理由
飲食店を閉店する際には、営業許可や事業登録をしたときと同じように、関係機関に「飲食店の営業を終了します」と正式に伝える必要があります。
届け出の提出を怠ると、税金や社会保険料が請求され続けたり、営業していないのに責任を負い続ける立場が残ったりする可能性があります。特に個人事業主の場合、こうした手続きをすべて自分で行う必要があるため、必要な流れを理解しておくことが欠かせません。
届け出が重要なのは、余計なトラブルを防ぐためです。例えば、保健所に廃業届を出さないと営業許可が残ったままとなり、調査対象になることがあります。税務署への廃業届を忘れれば、翌年以降も営業中とみなされ、所得税や事業税の申告を求められることもあるでしょう。
また、従業員を雇っている場合は、雇用保険や社会保険の手続きを怠ると、後から保険料の清算や給付をめぐるトラブルが発生することも考えられます。
このように、閉店時の届け出は単なる形式的な作業ではなく、事業を円滑に終了させるための大切なプロセスです。きちんと届け出を済ませることで、閉店後も安心して次のステップへと進むことができます。
飲食店閉店時に必要な4つの主要手続き
閉店時に必ず確認しておきたいのが、所轄ごとの届け出です。飲食店の場合は「保健所」「税務署」「警察署」「消防署」4箇所で書類手続きを必ず行わなければなりません。
複数の箇所の手続きが必要なため、それぞれの役割や必要書類、届け出期限を理解しておくことで、スムーズに閉店手続きを進められます。
管轄 | 必要書類・手続き | 期限 |
保健所 | ・廃業届
・営業許可証の返却 |
廃業日から10日以内 |
税務署 | ・廃業届出書 | 廃業日から1ヶ月以内 |
警察署 | ・深夜酒類提供飲食店営業
・風俗営業等の許可 |
廃業日から10日以内 |
消防署 | ・防火管理者解任届出書 | 廃業後速やかに |
1.保健所への廃業届
飲食店は営業を始める際に必ず保健所の許可を受けていますが、閉店時にもその許可を返すための手続きが必要です。廃業届と営業許可所の返却は原則として閉店から1か月以内に提出しますが、自治体によっては提出期限や必要書類が異なることがあります。事前に管轄保健所へ確認しておきましょう。
届け出を怠ると、営業をしていないのに更新手続きの案内が届いたり、調査対象となったりする場合があります。保健所への手続きは、閉店後の行政上のトラブルを防ぐためにも早めに手続きを行いましょう。
2.税務署への廃業届
税務署には「個人事業の廃業届出書」を提出し、事業を終えたことを正式に伝えなければなりません。これを提出しないまま放置すると、翌年以降も営業しているとみなされ、青色申告や消費税の申告書の提出を求められる恐れがあります。
特に、従業員を雇っている場合は源泉所得税の精算も必要になるため、最後の給与支払い後に必ず手続きを済ませることが大切です。
また、消費税の課税事業者であった場合は、消費税の確定申告や納税の処理も欠かせません。税務関係は間違いや遅れがあると延滞税や加算税が課されることもあり、注意が必要です。
初めて閉店手続きを行う場合や税務処理に不安がある場合は、税理士や専門家に相談してサポートを受けるとよいでしょう。
3.警察署への手続き
深夜0時以降に酒類を提供している店舗は、「深夜酒類提供飲食店営業」や「風俗営業等の許可」を警察署から得ています。閉店する場合は、その許可の返納手続きを行わなければなりません。
返納手続きは、営業許可証や認定書を返却する形で行われ、一般的には生活安全課が窓口となります。深夜営業をしていない飲食店の場合、この手続きは不要ですが、風営法の許可を持っている店舗は忘れずに対応しなければなりません。
警察署への届け出は地域の治安維持に直結するものであり、閉店時に必ずチェックしておきたい重要なポイントです。
4.消防署への手続き
飲食店は火を扱う業態であるため、開業時に消防署への届け出や防火管理者の選任が必要です。閉店時には、使用していた防火対象物に関する届け出を終了する必要があります。
届け出を放置すると、消防署の台帳に店舗情報が残り、不要な立入検査や安全確認の対象になる可能性があります。手続きを速やかに済ませておくことで管理台帳から店舗情報が削除され、不要な立入検査や連絡を避けられます。
消防署への手続きは安全面に直結するため、閉店後のトラブル防止のためにも必ず行っておきましょう。
閉店時に確認しておきたいその他の手続き
上記の4つの手続きに加えて、店舗運営に関わる契約や関係者への連絡も欠かせません。特に以下の2つは、閉店後のトラブルを防ぐために重要です。
リース契約・賃貸契約の解約
店舗物件を借りている場合や、厨房機器をリースしている場合は、解約手続きを早めに進める必要があります。
賃貸契約には「解約は3か月前までに通知」といった条件が盛り込まれていることも多く、遅れると家賃を余計に支払うことになりかねません。また、厨房機器や家具などのリース契約も、残存期間によっては違約金が発生するケースがあります。
賃貸物件では原状回復義務があるため、撤去費用や修繕費が必要になる場合もあります。閉店を決めたら契約書を見直し、管理会社やリース会社に早めに相談することが、余計なコストを避けるポイントです。
取引先や顧客への連絡
飲食店の閉店は、仕入れ先や顧客にも影響を与えるため、早めの連絡が大切です。
仕入れ先には、納品の停止や未払いの清算をスムーズに進められるよう、閉店日を明確に伝えておきましょう。また、常連のお客様や地域の方々には、閉店のお知らせと感謝の気持ちを伝えることが欠かせません。
突然の閉店は不信感を招くこともあるため、事前に丁寧な対応を心がけることで、信頼関係を守りながら円満に事業を締めくくることができます。
手続きに困ったら専門家への相談がおすすめ
閉店手続きは種類も多く、書類の準備や期限管理に不安を感じる方も少なくありません。そんな時は税理士や行政書士といった専門家に相談するのがおすすめです。
費用はかかりますが、手続き漏れやトラブルを未然に防ぐことができ、安心して次のステップに進むことができます。
まとめ|届け出を漏れなく行い、安心して閉店を迎えよう
飲食店を閉店する際には、保健所や税務署、警察署、消防署といった公的機関への届け出が欠かせません。
提出先ごとに必要書類や期限が異なるため、事前に整理して計画的に進めることが重要です。さらに、店舗の賃貸契約やリース契約の解約、仕入れ先や常連のお客様への連絡など、事務的な手続き以外の対応も求められます。
閉店は経営者にとって大きな決断であり、感情的にも負担の大きい場面ですが、ひとつひとつの手続きを丁寧に行うことで、予期せぬトラブルを避け、安心して次の生活や事業に踏み出す準備が整います。
閉店を「終わり」ととらえるのではなく、新たなスタートに向けた大切なプロセスとして前向きに取り組みましょう。