店舗やオフィスの退去をする時、多くの場合、「原状回復」という工程を経てから引き渡しをする必要があります。
しかしながら、原状回復の経験がない店舗やオフィスの経営者の方にとっては、「どこまで原状回復すればいいのか?」など、わからないことが多いかと思います。ここでは、そんな原状回復の意味から予算を抑える工夫まで幅広くご説明します。
目次
原状回復の基礎知識はYouTube動画でも解説しています!
原状回復工事の基礎知識に関しましてはウラシコのYouTubeチャネル【ウラシコチャンネル】でも解説しています。この動画では10分でわかりやすく要点をまとめておりますので、ぜひご参照ください。
原状回復とは?
原状回復とは、店舗やオフィスを借りた時点の状態(原状)まで、賃貸物件を回復する作業のことを言います。原状回復は賃貸借契約終了時、借主が負担する義務があると民法第545条で定められています。
すまわち、原状回復の義務は借主が負うこととなるのです。貸主と借主の間で、どの程度の原状回復をするのか認識合わせを行わない場合、対立や法的トラブルが発生する恐れがあるので注意が必要です。
原状回復の工程
原状回復工事はどのような工程で行われるのでしょうか。各工程をご説明します。店舗やオフィス、業種によっては、必要のない工程もありますので、ご注意ください。
1内装解体
まずは、店舗の間仕切りや家具・設備の撤去を行います。
2修繕工事
次に、壁や床などに発生した傷や汚れを修復します。壁紙を貼り直したり、塗料を塗りなおしたりします。
3 廃棄物処理
解体処理で生じた廃棄物を処分します。地方自治体のガイドライン等に合わせ、リサイクル可能なものなどにも分別し、処理を行います。原状回復の流れに関してはこちらのページで詳しく解説しております。こちらも合わせてご参照下さい。
原状回復の範囲
原状回復の範囲は、大きく分けて通常損耗と特別損耗で異なります。
通常損耗
通常損耗とは、店舗やオフィスを常識の範囲内で使用する場合の劣化や汚れのことを言います。経年劣化や通常損耗に関しては、基本的に借主が負担を負う必要がありません。しかしながら、店舗の原状回復の場合、不特定多数の人の出入りがあることなどから、汚れや傷が発生する恐れが増します。
そのため、通常損耗の原状回復を借主が負担する場合があります。借主が通常損耗を負担する場合には、「賃貸借契約書に原状回復する必要のある通常損耗の範囲が明記されていること」もしくは「借主が貸主の口頭説明によって当事者間の合意が認められていること」が必要となります。
そのため、店舗などにおいて通常損耗の原状回復が必要かどうかは、賃貸借契約書もしくは、借主の方にまずご確認ください。
特別損耗
特別損耗とは、通常損耗と違い、建具や家具を取り付けるために、床や天井に穴をあける場合やガラスの破損、たばこによる黄ばみや焦げ跡など、通常の範囲外の使用によって発生した劣化や汚れのことを言います。特別損耗に関しては、借主が原状回復義務を負うこととなります。
通常損耗と特別損耗の区別ははっきりとしていないこともあり、原状回復の範囲については、入居前に賃貸借契約書を熟読し、不明点などあれば、第三者機関や専門家、顧問弁護士に確認をとることをおススメします。
原状回復の相場
原状回復の相場は、先ほど述べたように原状回復の範囲が変わるため、業種によって大きく異なってきます。
飲食店の場合
飲食店の原状回復の場合、その業務性質により、一般的に坪10万円前後が相場となります。また、構造体のみの状態に戻す工事(スケルトン工事)を求められる場合は、坪単価が20~50万を上回ることがあります。
小売店の場合
小売店の原状回復の場合、一般的に坪5~8万が相場となります。飲食店の原状回復とは異なり、求められる工事が表層材の張り替え等で済む場合が多く、相場は比較的抑えめです。
オフィスの場合
オフィスの原状回復の場合、借りているオフィスビルのグレードによって相場が異なります。中小規模のオフィスビルの場合:2~5万程度、大規模のオフィスビルの場合:5~10万、大手デベロッパーの場合:20~30万程度となります。
原状回復の費用が高くなる要素
原状回復の相場について、業務別でご紹介しました。しかし、原状回復の工程によって、相場よりもさらに費用が発生するものがあります。そちらについて、3つの観点からご紹介します。
1手間・人手がかかるもの
個室空間などを多く設けていること
フロアの中に間仕切りを複数設けている店舗やオフィスの場合、その分拠出するものが多くなってしまうため、原状回復の費用が高くなってしまいます。
搬出しづらい状況であること
店舗やオフィスの出入り口が狭いことや、フロアが地下もしくは高層に位置していると、拠出に手間がかかってしまうため、原状回復工事の費用が高くなります。
隣接する道路が狭いこと
店舗が入っている建物に隣接する道路が狭いと、重機を入れることができず、その分、人手が必要となってしまうため、原状回復工事の費用が高くなります。
2変更や撤去の必要性のある設備
排気ダクトの有無】
焼き肉店など、1つのテーブルにつき排気ダクトが接地されており、天井や床にダクトが通っている場合は、その分、原状回復の費用が高くなります。
厨房設備の変更の有無
厨房のレイアウトや水道ガスの配管や電気の配線等を変更・撤去する場合にも、専門の工事が増すため、原状回復工事の費用が高くなります。
グリース・ストラップ(油廃棄構)の有無
グリース・ストラップとは、主に厨房の床下に位置しています。下水道のなかに油や残飯などが流出することを防ぐ阻集器の一つです。こちらも、配管同様、原状回復工事の費用が高くなる要素です。
3汚れが多く発生するもの
喫煙可能店舗
条例によって、屋内喫煙が原則禁止となりましたが、喫煙を許容しておられる業者も少なくありません。喫煙によって壁や床の除去しにくい黄ばみ汚れが生じるため、原状回復工事の費用が高くなってしまいます。
ラーメン店や居酒屋など油を多く使用する店舗
油を多く使用する店舗では、床や壁に油汚れが生じるため、原状回復に必要な作業が多くなります。また、上記グリースストラップも設置されているため、さらに原状回復工事に必要な費用が高くなります。
原状回復にかかる予算を抑える工夫
このように、原状回復では費用が高くなる要素が多いですが、費用を抑える工夫もあります。
事前に家具などを下取り業者等に売る
店舗やオフィスで使用していた家具や什器、レジなどの機器は専門の何件かの下取り業者に見積を依頼し、高く引き取ってくれる業者に売りましょう。撤去を向こうの費用で行うことができるので、原状回復の際に撤去するよりコストダウンとなります。
原状回復をしないという選択肢
ここまで、原状回復について紹介してきましたが、「原状回復をしない」という選択肢もあります。それは「居ぬきで造作譲渡すること」です。この方法だと、原状回復工事に比べ費用を抑えることが可能です。
造作譲渡とは原状の家具や設備をそのまま事業者に引き継ぐという方法です。引継ぎ先は、自力で探すほかに、専門の不動産業者に依頼することもできます。貸主の了承は必要ですが、造作譲渡を行うことで発注や工事などの負担を減らすことができます。
まとめ
業績不振や事業拡大による店舗やオフィスの移転・退去の際に必要となる「原状回復」についてご説明しました。
貸主借主間で対処できない様々なトラブルを回避したり、費用や負担を削減するためには、まずは賃貸借契約書を見ていただき、その後、実績のある専門業者に見積り・ご相談を依頼してみることをおススメします。
本記事が店舗やオフィスを扱う経営者の皆様にとって、少しでも役立つ内容であれば幸いです。
見積もりや相談をするべき専門業者の選び方に関しては、こちらの記事一覧ページにてまとめております。こちらも合わせてご参照ください。