賃貸物件を貸していると、突然の「夜逃げ」というトラブルに直面することがあります。
誰にも行き先を告げず、深夜にこっそりと出ていってしまう…。そんな入居者が残していった家具や荷物を目の前にして、「このまま捨ててもいいのかな?」「費用は誰が払うの?」と不安になったことがある方もいるのではないでしょうか。
実は、残された荷物(=残置物)をどう扱うかには、法律上の決まりごとがあります。気持ちとしては「すぐにでも片付けて次の入居者を入れたい」と思ってしまいますが、勝手に処分してしまうとトラブルになることがあります。
今回は夜逃げした入居者の残したもの=残置物の正しい対処方法を、丁寧に解説していきます。
目次
残置物は勝手に処分してもいい?
結論からお伝えすると、残置物は勝手に処分してはいけません。
というのも、夜逃げした入居者の荷物には、いまだに「所有権」があるからです。たとえ部屋を出ていってしまったとしても、置きっぱなしにされた物を勝手に捨ててしまうと、「他人の財産を侵害した」とみなされてしまい、法的なトラブルにつながります。
また、「賃貸契約が終わったから」といって、そのまま残置物も自由に処分してよいというわけではありません。賃貸契約の終了と荷物の所有権の放棄は、別の話なのです。
もちろん管理者側の気持ちとしては、すぐにでも片づけたいところでしょう。次の入居者の内見や契約もストップしてしまい、空室のままでは家賃も入ってきません。ですが、焦って処分してしまうと、後から「勝手に財産を捨てられた」と訴えられるリスクがあります。
まずは「勝手に捨てるのはNG」というルールを理解して、正しい手順を踏むことが大切です。
夜逃げされた荷物の扱いはどうなる?
夜逃げされた入居者の荷物は、法律上「残置物」として扱われます。これは、「部屋の明け渡しはされているけれど、中の物にはまだ所有権が残っている状態」と考えてよいでしょう。
「持って行ってないんだから、いらない荷物でしょ?」と思ってしまいがちですが、それは管理者側の主観でしかありません。本人にとっては大切な物だったかもしれませんし、「取りに戻るつもりだった」という主張もされかねません。
ただし、賃貸借契約書の中に「残置物があった場合は、所有権を放棄したものとみなす」などの条文が明記されていれば、話は少し変わります。そういった条文があることで、オーナー側が適切な対応をしやすくなるでしょう。
まずは契約書を見直すことが第一歩です。残置物に関して、どのように書かれているかによって、今後の対応が大きく変わります。
残置物の処分手順と流れ
それでは、実際に夜逃げされた場合、残置物はどのように処分すればよいのでしょうか。手順をひとつずつ、順を追って確認していきましょう。
① 契約書を確認する
まず確認すべきは、賃貸借契約書です。
契約書の中に「退去時に残置物があった場合は、所有権を放棄したものとみなす」などの記載があれば、比較的スムーズに処分できます。こうした記載がない場合は、次のステップに進む必要があります。
② 賃貸借契約を正式に解除する
次に、入居者との契約を正式に終了させなければなりません。もし連帯保証人がついていれば、その方と連絡を取り、契約解除について同意を得られるとスムーズです。
しかし、連帯保証人がついていない場合や連絡が取れない場合には、民事訴訟を通じて契約解除の手続きを進めることになります。
③ 強制執行の申し立てを行う
契約が解除された後も、まだ処分はできません。残置物を法的に撤去するには、裁判所に「強制執行の申し立て」を行う必要があります。
これが認められることで、オーナー側が残置物を合法的に撤去できるようになります。少し大変に思えるかもしれませんが、トラブルを避けるためには欠かせないステップです。
④残置部処分の実行
裁判所から強制執行の許可が出たら、いよいよ残置物を処分することができます。ご自身でゴミとして出すことも可能ですが、量が多かったり大型の家具がある場合は、専門業者に依頼するのが現実的でしょう。
このときの処分費用については、後ほど詳しくお伝えします。
私たちウラシコでは、残置物の処分に加え、原状復帰工事の実績も豊富にございます。また古物商許可証など、不用品買取の資格もあります。ぜひお気軽にご相談ください!
残置物の時効取得は可能?
「10年放置したら自分の物になるのでは?」そんな疑問を持たれる方もいます。これは民法の「時効取得」の考え方に基づくものですね。
たしかに、『他人の物を所有の意思をもって10年間使い続ければ、自分の物になる(=時効取得)』という法律があります。しかし、残置物に関しては、オーナーが「自分の物として使用していた」とは言い難いため、時効取得が認められるケースはほとんどありません。
しかも、その間ずっと残置物を放置していたとなると、賃貸経営にも影響が出てしまいます。つまり、「いつか時効になるから…」という理由で放置しておくのは、現実的ではないと言えるでしょう。
残置物撤去費用は誰が払う?
残置物の撤去には、どうしても費用がかかります。この費用は基本的に、一時的にはオーナーが負担することになります。業者に依頼した場合の費用相場は、以下の通りです。
項目 | 内容 |
残置物処分費用 | 約5,000円〜15,000円/1㎥(立方メートル) |
エアコン・冷蔵庫など家電 | 家電リサイクル料金が別途発生(2,000〜5,000円程度) |
また以下のように建物の条件によっては、料金が高くなることもあります。
・エレベーターがない
・トラックが物件の近くまで入れない
・処分業者の繁忙期にあたる など
ただし、契約書に「処分費用は入居者(または連帯保証人)負担」と明記されていれば、後から請求することが可能です。保証会社を利用している場合も、状況に応じて請求できる可能性があります。
トラブルを防ぐための事前対策
夜逃げや残置物トラブルを未然に防ぐには、「契約時の備え」がとても大切です。以下のポイントを契約内容に含み、入居者にも伝えておくようにしましょう。
1. 契約書に「残置物条項」を入れる
例:
「退去後に私物が残されていた場合、入居者は所有権を放棄したものとみなす」
「残置物の処分費用は入居者が負担する」
こうした条項があることで、処分までの手続きがスムーズになります。
2. 保証人+保証会社でダブルで備える
家賃保証会社の利用だけでなく、連帯保証人の設定も重要です。保証人と連絡が取れれば、契約解除や費用請求などもスムーズに進みます。
3. 入居者とのコミュニケーションを大切に
定期的に連絡を取り合い、信頼関係を築くことも大事です。まめにコミュニケーションをとることで、問題が起きたときの早期発見にもつながります。
まとめ
夜逃げされた入居者の残した荷物は、感情的には「早く処分したい!」と思ってしまうものですが、法律的には慎重に対応しなければならない問題です。
まずは契約書を確認し、必要であれば契約の解除や強制執行の手続きを行う。そのうえで、残置物の量に応じて適切に処分する流れとなります。
費用は一時的にオーナーが負担することが多いですが、契約内容によっては後から請求可能です。事前に「残置物の取り決め」を契約書に盛り込んでおくことで、将来のトラブルを防ぐことができます。
もし対応に不安がある場合は、不動産管理の専門家や弁護士に相談するのもおすすめです。安心して次の入居者を迎えるためにも、冷静かつ確実な対処を心がけましょう。