「解体」という言葉を聞くと、大型の重機を使い建物を壊し、大型車両で運んでいくような姿をイメージする方が多いのではないでしょうか。
しかし、諸々の事情により重機を使うことができず、工具を使用しながら人力で解体していかなければいけない場合もあります。今回は、その手壊し工事(人力工事)について説明していきます。
手壊し解体で使用する工具につきましては、こちらの記事で詳しく解説しています。専門用語、俗称も網羅していますので、ぜひ合わせてご参照ください。
目次
手壊し解体(人力解体)とは?
手壊し解体とは、バールやチェーンソーなどの工具を使用しながら、人力で解体していく方法です。場合によっては一部小型重機を使用することもありますが、基本的にはすべて人力で行っていきます。廃材を運搬するトラックが、現場近くにまで乗り入れ不可なこともあり、その場合は廃材を一輪車などで運搬するといったような作業も必要です。
そもそも、建設リサイクル法の制定までは、壊された廃材の種類を分別することなく、重機で取り壊しを進めていくいわゆる「ミンチ解体」という手法が主流でした。しかし、建設リサイクル法の施行により、「ミンチ解体」は実質禁止となり「分別解体」を求められるようになりました。
これはその名の通り、壊された廃材を種類ごとに分別し処分する解体方法になりますが、この分別作業の際にはおのずと人手を使って分別する必要が生まれます。これが現在主流となっている「重機併用手壊し工法」へとつながってきています。
この工法では、先に述べた分別など繊細な作業を人力で行うといった場合もあれば、はじめは重機が入れるスペースが無いとしても、手壊しで解体を進めることで、重機をいれるスペースを作り、途中から重機を使い解体していくといった場合もあります。
重機を使うことで、作業効率は上がりますが、やはり繊細な作業などは、人力で行わなければなりません。工法にとらわれることなく、臨機応変に対応することができるのが、手壊し解体の特徴でもあります。
手壊し解体が必要になるケース
では、どのような場合に手壊し解体が必要になるのでしょうか。具体的な例とともに説明していきます。
道幅が狭い場合
解体現場前や付近の道幅が、車のすれ違いが困難なほど狭い(幅2m以下)場合です。一般的に重機は、2m程度の幅があるものを使用することになりますので、現場前の道幅が2m以上ないと重機を安全に運搬・使用することができません。
また、現場にたどり着くまでの道も同じく2m以上でなければならないということになります。曲がり角がある場合には、大きなゆとりが必要になりますので、さらに道幅が広くないと通ることができません。このような理由から、道幅が狭い場合には、手壊し解体になります。
先にも少し述べた小型の重機であれば使用できるかもしれませんが、トラックと小型重機で道をふさいでしまうわけにはいきませんので、手壊し解体である程度解体を進めてから、使用することになるでしょう。
道路と敷地内に段差
解体現場が前面道路よりも大幅に高かったり、低かったりする場合には重機を現場内に入れることができないため、重機は使用できません。このような場合に、クレーンを使用して重機をいれる方法もありますが、敷地内に重機をいれるスペースがある、かつクレーンを置くための十分な道幅があることが条件になりますので、かなり厳しくなるでしょう。
道路が階段状になっている
前述の道路と敷地内に段差がある場合にも通ずるところがありますが、そもそも車両の乗り入れを想定していない場所では、道路が階段状になっていることがあります。この場合には解体現場に重機を搬入することは不可能です。
多少の階段であれば、鉄板を置くなどして搬入できることもありますが、距離が長くなってしまうと、不安定な場所を通ることになるため、搬入時の安全性を確保することが難しくなります。
建物が奥まった場所にある
解体現場が敷地内の奥まったところにある(解体する建物と前面道路の間に家などの障害物がある)場合には、重機を奥まで運ぶことが不可能であるため、手壊し解体になることが多いです。
また、道幅のところでも触れましたが、重機はある程度の大きさがあるため、重機を使うとなると周辺にもそれなりの余白が必要になりますので、袋小路の先にある場合などは、やはり重機は使用できません。
人通りや交通量が多い(商店街の中、幹線道路沿い等)
前述の条件をクリアしていても、重機での解体ができない場合があります。それが、商店街など人通りが多い場所や幹線道路沿いなどの交通量が多い場所に解体現場が面している場合です。
商店街の中の場合、道幅が十分ではないため手壊しになることも考えられますが、十分に広さがあるような場所でも、歩行者などの第三者に危害が及ぶと判断された場合や、騒音や振動、粉塵などの問題が発生した場合には手壊しをせざるを得なくなります。
また、幹線道路などの交通量の多い道路に面している場合には、重機やトラックを停車させることで道を塞いでしまったり、渋滞を引き起こしてしまったりするなど、その影響が大きくなる可能性がある場合には、手壊し解体を選択するほかありません。ちなみに、このような場合には、警察署で道路占有使用許可申請をする必要があります。
手壊し解体工事の流れ
では、実際の工事の流れを見ていきましょう。
①先行手壊し(小型重機を使う場合のみ)
道幅が狭い場合でも少し触れましたが、小型重機などを搬入する場所を確保するために行う解体です。小型重機を使う場合ですので、すべて手壊しで行う場合には、必要ありません。
②養生
建物の四方を養生で囲います。これは、近隣に廃材やゴミが落下するのを防止する役割もありますが、高所で作業している作業員が万一落下してしまっても、建物の間に落ちてしまう危険性を減らすことができたり、壁を解体するときや廃材をトラックに積み込む場合の足場としても利用できたりするという一面もあります。
③解体開始(外から内へ)
養生を済ませたら、実際に解体を始めていきます。解体は、上から下へ、外から内へ進めてくのが基本です。また、解体を行う場合にはチリやホコリが舞ってしまうことを防ぐために適宜散水して作業を進めていきます。
屋根上解体を行う場合は、一部屋根の下地を先行して解体し、屋根材を2階部に集積させることが多いです。その後、下地を解体し、2階の床に落としていくというように進めていきます。
壁の解体をする場合には、はね出し(一方のみが壁や柱に支えらていて他方が突き出している状態の部材)など壁の外側に荷重が掛かりそうなものは予め撤去し、倒す予定の部分の柱に根回しを施し、人力で内側へ引っ張り倒します。
④分別・廃棄
先にも少し述べましたが、解体で出た廃材は分別して処分しなければなりません。解体をするときにも、木材、鉄くずなどのように分別して処分していきます。
手壊し解体のメリット・デメリット
次に、手壊し解体のメリット、デメリットを説明します。
手壊し解体のメリット
・騒音や振動、粉塵を抑えられる
大型重機を使用することがないため、騒音や振動をかなり抑えることができます。実際にチェーンソーなどの道具を使う場合には、騒音となる可能性はありますが、重機と比べると雲泥の差です。
また、重機を使用することで発生する粉塵も抑えることができます。皆さんも経験したことあるかもしれませんが、工事で発生する騒音や振動は、かなりのストレスになります。
もしかすると、近隣トラブルに発展する可能性もあります。ですが、手壊し解体では、これらの可能性を必要最低限にすることができます。
・安全で丁寧
重機を使ったほうが楽に早く解体を進めることができますが、危険も伴います。人的被害を出すことも考えられますし、近隣の建物や車両を傷つけてしまう可能性もあります。
少しの操作ミスでかなりの損害を発生させる危険性をはらんでいます。その点、手壊しの場合には、大けがするような重大事故につながる危険性は抑えることができる上、細心の注意を払うことで周辺への影響も抑えることができます。
・長屋など特殊なつくりにも対応
長屋とは、玄関や階段、廊下を共用していない2戸以上の住宅が連続している建物のことを指しますが、この長屋の解体には、手壊し解体が最適です。
長屋は、家の大事な骨格である壁を世帯の異なる2戸で共有しているため、片方を切り離すとなると、壁などを傷つけないことや壊した後の補修工事等に経験やスキルが非常に大事です。
壁一つ隔てた隣の世帯の生活への影響を最小限のものにしなければなりらないので、そのノウハウが長屋の解体には欠かせません。そのため、どの業者でも長屋の解体をできるというわけではありません。
手壊し解体のデメリット
・解体工事に時間がかかる
解体のほぼすべての工程を重機を使わずに、手作業で行うことになるため通常よりも時間がかかります。場合によりますが、約倍以上の日程が必要になると考えてもいいかもしれません。
屋外での解体の場合、雨天の中で高所の作業をすることは危険ですので、作業の一時中止や場合によっては、その日は作業できなくなる可能性もあります。
天候に左右される可能性が高いことも、時間がかかる要因の一つです。作業員の安全を考慮した結果、それに相当した時間を要することになります。
・廃棄物の運搬にも時間がかかる
前にも述べましたが、重機を使用できないということは、廃棄物の運搬も人力で行わなければなりませんので、廃棄するにも通常より多くの時間がかかることになります。
・費用が割高になる
前述のように、多くの人力が必要になるということは、それだけ多くの人手が必要になります。人員を多くして作業時間を短くするにしても、最低限の人員で長期間の日程を組むにしても、かなりの人件費がかかることは明白です。
リソースを増やすということは、管理する側の人間も増やす必要がありますので、時間短縮のために人員を多く割くことで、かなりの費用が発生する可能性があります。
手壊し解体の費用相場
手壊し解体の工事費用は、一般的な重機を使用する解体工事の費用の約2倍以上になるといわれています。先にも述べたように、人員が多く必要になること、時間がかなりかかることから、人件費が大幅に高くなることは想像できるかと思います。
また、産業廃棄物の処分費用、場合によっては、警備員の配置費用など、様々なところで費用が発生します。しかしながら、費用に関しては、各現場、各業者によって変わってきますので相見積もりを取るなどして、相場を探ってみてください。
解体費用についてはこちらのページで詳しく解説しています。ぜひこちらも合わせてご参照ください。
おわりに
いかがでしたでしょうか。今回は、手壊し解体について説明してきました。
重機を使用した解体のほうが、時間も価格も抑えることができますが、どうしても手壊しをしなければならない場合というのは存在します。
複雑な地形の多い日本では仕方のないことかもしれませんが、費用を抑えたいからと言って、適当に業者の選定をしてしまうと後で大変なことになる可能性があるので、業者選定の段階から実績があり、信頼のできる業者を探すことが大切です。
信頼できる解体業者の選び方は、こちらの記事でも詳しく解説しています。こちらも合わせてご参照ください。